去年の8月25日、kulakulaの1st EP「暗闇からあなたへ」を出した。
それから約1年が経ち、もうそろそろサブスクの期間が終わってしまうので(継続はしません)、最後もう一回聞いてほしいということで、各曲を紹介する。
野暮だとは言わないでおくれ!
1. The Door is Always Open
この曲では初めての試みがあった。
自分の経験や状態や感情を歌詞に書いたということである。
1枚目のアルバムで作った曲は、大体架空の物語だったり誰か他の人に向けての歌詞だった。
別にそれまで自分のことは書かないように意識していたわけではないが、この曲ではその時の自分や周りの友達の状況を、それに対して思ったことを残したかった。
それが将来の、誰でもない自分自身を助けてくれると思った。俺は自分の曲をかなり聴くから、今後聴いたときに、もしピンチだったらこの気持ちを思い出させてやろうと。
その頃、俺は就活でかなり参ってしまっていた。
就活というものを浅いところから舐めていた。丸腰すぎた。
そのせいで希望していたテレビ局の面接は全て落ちてしまった。なんとか当時はまだやりたいと思えていた仕事につくことができたけれど(今はやりたいという気持ちは完全になくなってしまった)。
またその頃、先に社会に出ていた親友も苦境に陥っていた。
その話を聞いて思ったことが一つの要素としてある。
そして、俺は西加奈子の「夜が明ける」を読んでいた。
ちょっと耳にしていた情報通り、重い、ズーンと来る、こっち側が困ってしまうほどリアルで手触りのある描写で、とある男とその親友である主人公の半生を描いていた。
人生でどうしようもなくなった時、その時はもう逃げなきゃいけない。意地や体裁や人との関係とかそんなのほっぽり出して逃げる、その選択肢がなくなってはいけないということを書いていたと思う。
そんな色々をこの曲の詞に書いたわけだ。
「忘れないで その扉はいつだって開いていて 遠くへ行けるわけじゃないけど」
ここでいう扉は先に進むためのものじゃなくて、振り返って安心できるところに帰るための扉であって、それはいつでも開けられるから、それを忘れるなよと、そう俺は未来の自分に対して言っているのである。
ただ、歌詞がああだこうだと言っているが、この曲自体は完全にタイトル先行でできた曲だ。
"The Door is Always Open"というフレーズは、もともとMGMTの"James"という曲の中の一節である。
文脈的には「友達が欲しいなら俺の家にこいよ、ドアはいつも開けてるから」みたいなことだと思うのだが、このフレーズが妙に頭に残り、これをタイトルにしたいと思っていた。
そしてそこに前述のような所感と、かなりいい感じのメロディーラインが集合し、この曲が出来たというわけである。
2. 野付岬
2020年、ヨーロッパに行きたいからと大学を半年休学した。結局コロナで行けなくなったが、その夏、車で北海道を一周した。その時、以前から気になっていた道東の野付半島にも行った。
知床半島と根室半島に挟まれている、釣り針のような形をしているのが野付半島である。
高校の地図帳で初めて見つけた時からかなり気になっていて、絶対にいつか行くのだと決めていた。
半島に着いたのはもう日が傾いている頃だった。
誰もいない。細い半島に車道が続き、それが終わると、歩いていけるところまでススキの中を行く。
↑ちなみにこれは2nd EPのジャケット
木は全部立ち枯れているし、ぽつぽつとある建物も多分全部廃屋だった。
本当に寂しい場所だけど、とても美しい時間が流れていた。
声を出せばこの美しさが崩れてしまうような感じがした。時間の中に体を入れ込んでいくような感覚で歩いた。
今のところ、世界で一番好きな場所である。
そして話は変わって、2021年10月、割と早い時期に映画「ドライブ・マイ・カー」を見に行った。大体こういう時はオモコロの原宿の話を聞いて、である。
感想は書かないけど、本当にいい映画だった。自分の経験に、自分の見た景色になるような映画がとても好きだ。映画館に2回観に行ったのは今のところこの映画だけである。
多分北海道で育った人はそうでない人に比べて感じ入りやすいだろうなと思うような内容なのだけど、どうだろう。
上映は結構遅い時間で、帰る頃には23時とかだった。
映画館からは御池通を自転車で東に突っ切り、鴨川を渡って家まで帰るのだけど、御池通は京都の通りの中でも歩道が多分一番広く、舗装もきれいな黒いタイルみたいな感じで、走っていて気持ちがいい。
夜遅かったから人はほとんどおらず、適度に明るい間隔で並んでいる街灯の光が黒いタイルで落ち着いた感じで反射していて、いい映画を見た帰り道としてこの上ないものだった。
自転車を漕ぎながら、この感動を何か形にして残したいと思った。映画に限らず良い作品に触れた後は大体そういう運びになる。
そしてこの曲が、家に着くまでにはほとんど出来上がった。かなりありがたいスピード感である。
3. 日曜日
もともと1stアルバムの頃には原型ができていたが、仕上げることなくポシャっていた。
アレンジは"Where is My Mind?"っぽく。天国旅行のサウンドからも少なからず影響を受けている。
ライブでバンドでやったらかっこいいだろうなーと思う。
4. 葬送のテーマ
この曲は井手健介と母船の曲「ぼくの灯台」からかなりもらっている。
「ぼくの灯台」を初めて聴いた時やられた!と思った。結構俺がやりたいことだった。
要するに、死とか寂しさとかそういう感じのものをシリアスではなく、かといって明るさに振り切るわけでもなく、灰色の雰囲気を残したまま爽やかに表現する、というようなものが好きだし、やりたかった。
アレンジやミックスがもっともっと練れるので、次のアルバムに作り直して入れる予定である。今のところかなりかっこよく仕上がっています。
5. 洞窟より
この曲は本当に一瞬でできたため、あまりその時のことを覚えていない。
歌詞は、ゆらゆら帝国の「学校へ行ってきます」に結構ヒントをもらっている。
「葬送のテーマ」からこの曲にコンガをつなげるというアレンジを思いついた時はニヤッとしてしまった。
6. 光の沖
自分としては珍しく、というか唯一の「詞先」の曲である。
この曲も灰色っぽい景色や寂しさを描いている。俺はどん曇りの誰もいない砂浜が好きだ。
アレンジはこれまたゆらゆら帝国を意識している。ゆら帝と言っても、中期?くらいのサウンドだ。ベストアルバムの2枚目に顕著な。
ベースの音が「ボーン、ボーン」というなかなか良い感じなのだが、これはたまたま春先、最初に作った時に袖がダルダルのパーカを着ており、その袖がずっと弦に触れていてナチュラルミュートの格好になってこういう音になった。
夏だったらこの音にはなっていなかっただろう。
また、「光の沖」というタイトルは我ながらアッパレである。自分の曲のタイトルの中では一番好きだ。「沖」って。「光の海」とか「光の渚」とかだったらそれは力及ばずだ。弱い。「沖」に行けている奴はなかなかいないんじゃないか。
はい
曲の紹介としてはこんな感じである。
「暗闇からあなたへ」というタイトルは、この次のEP「フレア」に収録された同名の曲がもともとこのEPに入る予定だったんだけど、アレンジがいつまで経っても進まず、でも名前は気に入ったからそれだけ残ったという形である。
ジャケットは、夜の鴨川で、後輩に撮ってもらった。暗闇の中から、俺がやってくる。
技術的な面では、この頃かなりお金がなく(今ももちろん、ない)、オーディオインターフェースを買ったら付属で付いてきたフリー版のソフトを使って作ったので、トラック数は8つまでに限られるし、イコライザーも3バンドまでだし、リミッターは入っていないしでかなり制限されており、ちょっと心残りである。
今制作中のアルバムには「葬送のテーマ」のリアレンジが入る予定だが(断言はできない)、他の曲も機会があればまた録り直したい。良い曲が多いので。
さて、kulakulaは現在2ndアルバムを鋭意制作中である。
先週くらいまでかなり調子が良く、とんとん拍子で曲が出来ていったが、今週はその揺り戻しが来ていて、結構苦戦している。状況は二進一退といった感じである。
また、牛戦車ラジオでも触れた通り、今回のミックス・マスタリングは牛戦車の音楽部門で行われる予定である。2030年にはスタジオ牛戦車がこれでもかというような力強さで開業する予定。そのための第一歩として俺のアルバムを試しにやってみようということである。
9月中には出したい!乞うご期待!
EP「暗闇からあなたへ」のサブスクは8/25まで!たくさん聴け!
あと、バンドメンバーはいつでも募集中なので、誰か直接声をかけてくれ!