牛戦車

この牛戦車には夢がある!

屋上(幸坂)

赴任した学校の屋上には金魚が降る。

 漫画やドラマや妹の見た夢の影響で憧れたのが学校の屋上。幼少に足らぬ頃から漫画やドラマで屋上の光景を目にする機会があった。しかし唯一屋上に手が届き得る学生時代だというのに、その頃はまだ屋上に対しての興味は育まれていなかった。社会人になってから妹の見た夢の話を聞き屋上に憧れを抱いた。慌てて大学に通い直し教育免許を取得し三十歳を目前にして教師になった。 

 赴任した学校は三つある階段がどれも近く不便だが保健室は広い。近い階段の中でも屋上に続く階段を上り、扉に突き当たるとそこから先は屋上だった。扉を開け最初に見えたものは、目を凝らさなければ見えない程遠い屋上の箇所に降る金魚。その金魚は屋上の床に落ち、少し弾んだ。すぐさま全く目を凝らす必要のない程近い箇所に降ってきた金魚が唇を掠めた。呆気に取られて足元に視線を落とすことができなかった為、金魚が床に落ちたかはついぞわからない。屋上には数えていられない匹数の金魚があった。既に落ちていた金魚達に当たるか当たらないかで矢継ぎ早に新鮮な金魚が降っている。ドラマや漫画で見たあのような屋上の光景はフィクションなのだと思い知った。母校の屋上にも金魚は降るのだろう。最初に見た金魚だけが落ちて弾んでいたのだからあれは自力で跳ねたのだ。